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「アメリカにおける手塚治虫作品の受容の変遷-もうひとつの「手塚神話」の形成」‐前編‐

[椎名 ゆかり] 文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情 「アメリカにおける手塚治虫作品の受容の変遷-もうひとつの「手塚神話」の形成」‐前編<手塚治虫と海外>、<アメリカでの『鉄腕アトム』アニメ>

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アメリカで日本のアニメやマンガへの親和性を高める種を蒔き、後に日本のアニメやマンガをアメリカで売り出そうと考えるファンを多く生み出したという点だけ見ても、TVアニメ『鉄腕アトム』(『アストロ・ボーイ』)がアメリカにおける日本の大衆文化の受容において果たした役割は大きい。

しかし、それでも残念なことに、『アストロ・ボーイ』の生みの親として、手塚の名がアメリカで一般に知られるようにはならなかった。手塚がのちに自伝『ぼくはマンガ家』(9)で「なによりも自慢したかったのは、その番組のクレジット・タイトルに、虫プロダクションやスタッフやぼくの名が、はっきり出ることであった」と述べていたように、クレジットに名前が入っていたにもかかわらず、である。

『アストロ・ボーイ』のローカライズを担当したフレッド・ラッドによると、『アストロ・ボーイ』が日本製だということは、NBCにとって「否定はしないが、大っぴらに触れまわるのを避けたい」ことだった。その理由は、第一に「日本が第二次世界大戦のときの旧敵国」であったからであり、第二に「日本製と知ったらB級-粗悪品-と思うだろうし、(略)安く買い叩かれる恐れがある」からだったと言う(10)。

放送されるアニメーション番組の中の描写に対して、ある種の文化的コード――何が視聴者に受け入れられ、何が受け入られないか――が適用され、例えば暴力描写などが消されるのは、現在でもしばしば行われることである。それに加えて当時は、作品のオリジンである「手塚」や「日本」そのものが消され、むしろ「アメリカ産」として受け入れられることが望まれていた。NBC側は「リミテッド・アニメーションだからきっと国産のハンナ・バーバラ製だと思ってくれるんじゃないか」とすら述べている。(筆者駐:ハンナ・バーバラ・プロダクションはアメリカのアニメーション・スタジオ。現在はワーナー・ブラザーズ・アニメーションに吸収合併。)

結果として『アストロ・ボーイ』が、今でも一部のアメリカの人々にノスタルジックな愛情を持って思い出されるほど人気があったとしても、『アストロ・ボーイ』の作者として手塚治虫や日本という国が当時の視聴者に強く意識されることはなかった。その後、手塚によるアニメが何本かアメリカで放映され、特に『ジャングル大帝』、英名『キンバ・ザ・ホワイトライオン(Kimba the White Lion)』は人気を得たが、NBCは『アストロ・ボーイ』同様に、その作者や製作された国を積極的に示すつもりはなかった(11)。

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1. 「東京アニメ・マンガ カーニバル in としま2014」
https://www.city.toshima.lg.jp/kanko/kankoevent/033908.html
2. 「世界へ広がる手塚治虫 -手塚治虫の元マネージャー 松谷孝征氏を招いて-」
https://www.city.toshima.lg.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/033/908/talkevent.pdf
3. 「日本マンガの海外出版状況調査-手塚治虫・の海外出版リスト」
http://mediag.jp/project/project/list.html
4. 日本における「手塚神話」の形成については、学習院大学教授でマンガコラムニストの夏目房之介氏のブログに掲載されている手塚に関する講義のレジメが、概要を知るには簡潔でわかり易い。(残念ながら筆者はこの講義に参加していない。)
早稲田EX連続講義「手塚治虫の世界」第1回「手塚治虫をめぐる現在の課題」
http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2014/09/ex-40b5.html
夏目房之介の「で?」2014年9月10日
5.  Schodt, L.Fredrik, The Astro Boy Essays: Osamu Tezuka, Mighty Atom, Manga/Anime Revolution, California, Stone Bridge Press, 2007. viii p.
6. Ruh, Brian, “Early Japanese Animation in the United States: Changing Tetsuwan Atom to Astro Boy,” 214p. (Mark I. West ed. The Japanification of Children’s Popular Culture: From Godzilla to Miyazaki, The Scarecrow Press Inc., Maryland, 2009)
7. 手塚治虫『ぼくはマンガ家』角川書店、200年、247p. 大和書房(1979年)改訂版
8. デイヴィッド・ハルバースタム『ザ・フィフティーズ』1巻、231p. 新潮OH!文庫、2002年
9. 手塚治虫『ぼくはマンガ家』角川書店、200年、255p.(底本:大和書房、1979年)
10. フレッド・ラッド/ハーヴィー・デネロフ『アニメがANIMEになるまで』久美薫訳、26 p. NTT出版、2010年。(Ladd, Fred & Harvey Deneroff, “Astro Boy and Anime Come to the America: An Insider's View of the Birth of a Pop Culture Phenomenon,” McFarland, 2009)
11. 『アニメがANIMEになるまで』71p.

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