「アニメ産業レポート2023」売上を伸ばすアニメ映画― 今後のヒット作、海外市場の広がりは?【藤津亮太のアニメの門V 第103回】 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「アニメ産業レポート2023」売上を伸ばすアニメ映画― 今後のヒット作、海外市場の広がりは?【藤津亮太のアニメの門V 第103回】

2009年から刊行されている、日本のアニメ産業に関する統計『アニメ産業レポート2023』。データから見るアニメ産業は、どのような動きがあったのか。

連載 藤津亮太のアニメの門V
注目記事

以下、私見を記すと、アニメ映画の興行は2012年に一度フェイズが変わっている。ここで始まった変化が、コロナ禍での消費者行動の変化の影響を受けつつ、現在に至ったのではないかと考えられる。以下は、藤津が考えているおおまかな仮説である。  

まず2012年にフェイズが変わった、というのは、同年はスタジオジブリ作品が不在であるにもかかわらず、初めて年間興行収入の総計が400億円を超えた年だからだ。ジブリ作品だけが飛び抜けていた1990年代(正確には1989年の『魔女の宅急便』から2001年の『千と千尋の神隠し』まで)の後、約10年の転換期を経て、ジブリ以外の大型ヒットが登場するようになったのである。ここからヒット作の多様化が始まった。  

この2012年を経て2016年に『君の名は。』が公開される。興行成績250億円という記録的ヒットとなった同作だが、初動の段階で中高生が敏感に反応していたこと、先行するジブリ作品、細田作品よりもぐっと“アニメっぽい”見た目の作品だったところに特徴がある。20億円を超える大型のヒットになるにはいわゆる“一般層”に届くことが重要になるが、『君の名は。』のメガヒットは、それまでのヒットと比べて“一般層”の動向が変化してきたことが感じられる。  

この“アニメっぽい作品”への親和性の高さは、2020年の『劇場版 鬼滅の刃』のヒットにも繋がる。少年マンガ原作のテレビアニメから派生した劇場版は基本的に「作品のファン」に向けて制作されている。『劇場版 鬼滅の刃』それまでであれば「一般層」には刺さりにくい外観の作品だが、アニメっぽさへの親和性が増していることと、コロナ禍で配信サービスが普及しそれによって「予習」をした層が増えたことで、“一般層”へと届く作品となったと思われる。  

こうした変化の積み重ねが、2022年の興行に繋がったと考えられる。またこの“一般層”の変化と並行して、「配信で見られないため若い世代の、ジブリに対する親和性が減ってきている」という現象が起きていることも無視できない。

こうやって諸状況を踏まえていくと、今年8月に控えている『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』の動向が気になってくる。ジャンプの人気作品である同作は、劇場版もこれが第4作。2021年公開の第3作はそれまでの2作の倍にあたる興行収入34億円を記録している。これはおそらくコロナ下で配信でキャッチアップした層が加わったことも大きいのではないか。つまりポテンシャルは十分ある作品だ。次の『ヒロアカ』のヒットの規模がどれぐらいになるかで、2022年のヒットの背後で起きている変化が、どういうものかもうちょっと具体的に見えてくるのではないか。  


ちなみに2022年に公開されたアニメ映画は76本。大型のヒットが生まれる一方で、興行収入2億円を超えたのは22本にとどまっている。つまりアニメ映画の大半は、興行収入2億円以下なのである。もちろん興行収入が低いからといって即失敗とは限らない。映画館の公開が終わっても、パッケージ、配信、テレビへの売却などさまざまなビジネスのタイミングがあるのが映画作品だからだ。ただいずれにせよ「大ヒット」と「そうでない作品」の格差が拡大しているというのが、アニメ映画の現状であるということが、同レポートからは見えてくる。  


《藤津亮太》
【注目の記事】[PR]

関連ニュース

特集