『アニメビジネスがわかる』著者 増田弘道さんインタビュー その1
                   今アニメビジネスはどうなっているのか?

今年7月に『アニメビジネスがわかる』がNTT出版より発売された。現在アニメビジネスが語られることは多いが、これまで書籍にまとめられることはあまりなかった。
今回は著者の増田弘道さんに、本についてとアニメビジネスを取り巻く状況についてお伺いした。

■ 増田弘道 (ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後キティレコードに入社。その後出版社などを経て2000年マッドハウス代表取締役に就任。2005年退社、現在携帯でアニメのフル配信をおこなっているフロントメディア顧問、アニメ制作会社シンプル・デッセの取締役プロデューサー、武蔵大学非常勤講師などを務めている。


■ 『アニメビジネスがわかる』 (エヌティティ出版)
2007年7月に発売された増田弘道さんの著書。国内外のアニメビジネスについて広く扱った数少ない書籍である。アニメビジネスの成り立ちや構造を様々な資料から解き明かしてる。また、現在のアニメビジネスの問題点を捉え、今後の有様についても考察し、大きな話題となっている。

 増田弘道氏BLOG「アニメビジネスがわかる」 http://anime.typepad.jp/blog/


 1. 『アニメビジネスがわかる』の出版のきっかけ

アニメアニメ
(以下AA)


まず、今回『アニメビジネスがわかる』を発表された経緯からお伺いしていいですか。

増田弘道さん
(以下敬称略)

もともとわたしは小さい頃から社会科が好きだったんですよ。それで普段からアニメビジネスの動向や数字に興味があったんです。

そこでアニメビジネスのバックグラウンドを本格的に調べたいと思いました。ところがご存知のように資料がない。
その時点で日経BPのアニメビジネスシリーズぐらいしかなくて、アニメ産業全体の概要がよくわからないんです。まあ、マッドハウスにも、その種のデータがなかったですし、おそらく業界全体で数字を出すことが余りないのだと思いましたが。

AA
それは過去のデータがないということですか?

増田

テレビアニメがはじまってブームになって以来、日本のアニメ企業はただひたすら走り続けてきました。そういった意味で前しか見てなかったのだと思います。
特にマッドハウスはその傾向が強いと思います。過去を振り返るヒマがあったら目の前の作品をつくれというようなものですね。それでマッドを含め色々なデータを集めはじめた次第です。

AA

それが今回の本のもとになっているわけですね。

増田

そうですね。調べているうちにアニメビジネスについて自分なりにまとめてみたいという気持ちがわいてきたんです。
昔から社会科好きだと言いましたが、今でもそういった系統の本をよく読むせいかも知れませんが、比較したり相対化したり、数字の意味を考えるのが好きなんだと思います。
ということもあり、アニメビジネスの規模ですとか、仕組みとかですとか、自分なりに調べて、なんとなく書きためていたんです。

それをある時に出版社に持ち込んだところ、これまでアニメビジネスの本がほとんどなかったので、じゃあ出して見ましょうかということになったわけです。

AA
今回かなり様々な数字を追われています。これはどうしてですか。

増田

ビジネスを語るうえで数字がなければ話しにならないわけです。どこの会社でもそうだと思いますが、ビジネスをやっている人達は、基本的な数字がなければ話にならないと思うんです。
アニメがどのように作られて、どのくらいお金がかかっているものなのかとか、年間どのくらい日本で作られているとかですね。素朴な疑問ですが、そういった基本的なデータがないとですね、アニメビジネスについては語りようがないかなと思うんですよ、これはどのビジネスもそうだと思います。

まず数字を押さえ、そのうえで、自分の視点を語ってみたいなというのがあって数字が多い原因になっていると思いますね。

AA
今回少し驚いたのは、制作規模とかだけでなく、いわゆる放映のための波代など、これまで表に出てこなかった数字や、あるいは調べられないと思っていた部分がかなりでていることです。
これはどうやって調べることが可能になったのですか?やはり経験からですか。


増田

経験もありますが、色々な角度から調べてみました。これはアニメのグロス(総売上)の数字を出すためにはどうしても必要だと思って提示しましたが、実際には需要と供給のバランスによって変化する「変動相場制」なので本来固定できない数字だと思いますが、敢えて挑戦してみました。

日本のアニメの95%はテレビ用に作られているのですけれど、テレビアニメのビジネスが始まった時から、その放送とアニメを作る側の関係がクリアでないという声が依然としてあります。
すでに出来上がっているビジネスモデルですけれど、もっと議論が必要なんじゃないかって、とにかく数字を提出しないと話にならないと思ったんです。

AA
クリアでない部分はどういった部分ですか?

増田
これは『鉄腕アトム』が始まった時からある問題で、アニメの放送対価とは何かという定義づけがずっと曖昧なまま来ていることです。
放映権なのか、製作費(出資)なのか、制作費(制作受託)なのかですね。

AA
そうですね。取りかたによって全然違いますよね。

増田
アメリカと違って、日本では明確なガイドラインが引かれてないので、どれにも当てはまる解釈が可能です。テレビアニメが始まって40年ぐらい経ちますけれど、明確に線引きされたことがなかったと思います。

AA

よく言われるのは制作費として考えると採算割れはおかしい、でも放映権と考えれば権利のひとつを売っているのだからそれもありなのじゃないかと見方が全然変わりますよね。

増田

よく制作費が安い、安いと言われますが、それはテレビ局から支払われるお金について言っているわけで、そのお金では実際にアニメがつくれる訳ではないのです。実際につくる金額との乖離があります。
だから、それは放映権料かもしれないし、言葉の定義はしっかりしたほうがいいと思います。

制作費が少なくて大変であれば、じゃあ一体どうやって作っているだろうという議論があってもいいわけです。

.
AA
増田さんの経歴もお伺いしていいですか。アニメとの関わりはキティ時代から始まっていると思いますが。

増田
ビジネス的なかかわりはキティレコードから始まっています。入社した会社が偶然アニメ製作をはじめたわけです。
アニメ音楽でいうとコロンビアなどが先行していましたけれど、番組を作るというところはキティが一番初めだったと思います。

AA
キティがアニメを手がけたのはどうしてですか。

増田

多賀さんという社長が映画好きで、当時『限りなく透明に近いブルー』とか、『太陽を盗んだ男』など作っていたんです。音楽だけでなくこれからは映像の時代だって、先見の明があったと思います。最近『クローズZERO』でヒットを飛ばした山本又一郎さんなんかもいました。

私と同時期に落合さん(落合茂一)という人が入社したんですよ。以前小池一夫さんと一緒にパートナーを組んでいた人で、劇画村塾で高橋留美子さんに出逢ったそうです。
落合さんがキティに来て、アニメをやろうかという話になって、『じゃりん子チエ』なんかをやって、そして81年に『うる星やつら』が始まったんです。ゴールデンタイムの番組ですけれど、それまでとはちがった新しいビジネスモデルを築いたと思います。

AA

それはヒットすると思っていましたか。

増田

原作はすでに100万部売れていましたからね。視聴率もよかったです。
うる星はそれまでのテレビアニメとビジネス傾向が違ってました。比較的高価なものが売れるんです。
主題歌もよく変えたりして、いろいろ音楽商品を出すんですが、大体いつも同じ数が売れるんです。今のアニメ・ファンに向けたマーケットに近く、その雛形だったのではないかと思います。

私はアニメ制作の担当ではなかったのですが、レコードやビデオの営業をやっていたので、それでうる星のLD50枚セット販売の時に担当になったりしました。いまでいうDVD-BOXの元祖です。

AA
その後にマッドハウスの社長になられたのは?

増田

キティの次に出版社に行きました。
その頃、落合さんが独立してアニメの制作会社をはじめて、『D・N・A』とか『Bビーダマン』シリーズとか子供向けのアニメなども製作していました。ところが落合さんが1999年にガンで亡くなられて、縁あって会社を継ぐことになりました。
その縁が発展してマッドハウスと一緒にやろうということになって、マッドハウスに行った次第なんです。

AA
キティはキャラクター開発が盛んな会社でしたが、マッドハウスはかなりとがった作家主義のような気がします。そうした違いはありましたか?

増田

そうですね。マッドハウスは作品志向で、虫プロの血をダイレクトに引いていると思います。
同じ虫プロから出た会社ではサンライズがありますけれど、よく「健全な経営」ということを言ってますね。これはおそらく虫プロの倒産を反面教師として捉えているからだと思います。

マッドハウスは逆に虫プロみたいに、冒険心に溢れた制作志向の会社ではないかと思います。私は虫プロのことを直接知っているわけでないですが、虫プロを知っている方々は似ているとおっしゃいますね。

              ■ アニメビジネスは新しいモデルが必要になっている

                             
 page topへ