青い文学シリーズ『人間失格』
   
文豪・太宰治の名作がアニメ映像に 浅香守生監督に聞く(1) 

「青い文学シリーズ」は2009年の太宰治生誕100周年、小林多喜二の「蟹工船」ブームなど、文豪たちの名作が注目されるなかで生まれた企画だ。大好評であった文豪たちの名作を人気マンガたちが描き下ろすスペシャルカバーで飾る集英社の「ナツイチ」キャンペーンが、新たにアニメにもその世界を広げた。
アニメ『DEATH NOTE』や映画『サマーウォーズ』で注目されるマッドハウスが、太宰治や夏目漱石、芥川龍之介、坂口安吾らの名作6篇を異なる監督、作画で映像化し、アニメ「青い文学シリーズ」が誕生した。

そのテレビシリーズ冒頭を飾ったのが、太宰治原作の『人間失格』である。キャラクター原案に『DEATH NOTE』、『バクマン。』の小畑健さんを招き、浅香守生監督が映像化に挑戦する。
テレビからさらに劇場映画化もされ、現在『人間失格 ディレクターズカット版』が劇場公開中だ。浅香守生監督にアニメ『人間失格』がどのように創られたのかを伺った。



■ 青い文学シリーズ『人間失格』 
太宰治の原作、そして太宰の自伝であり、遺書でもあるとも言われる作品をマッドハウスがアニメ化。全作品で主演声優を務める俳優 堺雅人が主人公・葉蔵を演じるのも話題となっている。
恥の多い生涯を送って来ました―。 裕福な家に生まれた大庭葉蔵は、人間の生活に馴染めない。様々な女性と出会い、別れていくそうした葉蔵の遍歴がアニメとして描きだされる。

青い文学シリーズ 公式サイト http://www.ntv.co.jp/bungaku/

■ 浅香 守生(あさか・もりお)
1967年3月11日生まれ。兵庫県出身。
1989年『YAWARA!!』で演出デビューし、その後1993年『POPS』で初監督を務める。主な監督作品は『人魚の傷』『カードキャプターさくら』(TV&劇場)『ギャラクシーエンジェル』『ちょびっツ』など多数。2006年には『NANA』の監督も務めた。マッドハウスを代表する演出家の1人である。


■ 「人間失格」は面白い 

アニメアニメ
(以下AA
)

作品を観た時に『人間失格』ってこんなにどきどきする話だったのかなと思いました。作品を作る時に原作をどう膨らませよう、どこからスタートしようと考えられたんですか。

浅香守生監督
(以下浅香)

僕が原作を読んだ時の印象は、「面白かった」ということでした。葉蔵の描きようが、ともすれば笑える方に振れるんじゃないかと思うぐらい面白かったんです。
昔、子供のころに読んだ印象とまったく逆ですね。当時はただ暗いだけの話だと思っていたのですが、そのギャップがまず面白かったですね。自分以外の人間に対する考え方とか、人の考えることは分からないといった葉蔵の周りに対する感じ方が、大人になった自分から見てとても共感できるところが多かったです。

AA

どきどき感というか、一種のサスペンス映画を見ているような感じを受けたのですが。 

浅香

サスペンスという要素は、どの作品を作る段階でも結構考えています。笑わせるためにもサスペンスは必要になりますし、いろいろな種類のサスペンスがあります。

AA

先ほど「共感できる」という話がありましたが、僕は正直言うと、太宰作品は昔、嫌いだったんです。今回の『人間失格』を観たら、僕が昔感じた主人公への歯がゆさがそのままで、今もテレビを見ながら同じ様に葉蔵怒っている自分がいました(笑)。

浅香

葉蔵は本当に駄目人間だと思います。けれども、あの駄目さは、幼少期の父親との関係や女中にいたずらをされたりといった部分から来ています。人間がどう育っていくか考えた時に、そういった状況があれば、こういう人間が出来上がってしまうのは必然なのかなという気もします。

.

AA

作者である太宰治についてはどうですか?

浅香

太宰本人はきっとサービス精神が旺盛な人だったんじゃないでしょうか。『人間失格』も自虐的な笑いを誘っている話なのではないかと思う時もあります。
アニメでは描かなかったのですが、葉蔵と堀木が家のベランダで、この言葉は喜劇用語か悲劇用語かという言葉遊びをしたりしているシーンがあるんです。罪の反対語は何だとかと言っているところがあるんですが、その辺を見ていると、それまでの葉蔵の生きざまや堀木に対する考え方を何か象徴して笑いを誘っているという気がします。

AA 

太宰作品の笑いですか。笑いはあまり意識していませんでした。

浅香

僕は一歩間違っていれば、今回の『人間失格』の企画も、もしかしたら逆にしていたかなと思っていたんです。

AA

太宰治は原作としては非常に大きなものですけれども、それはマンガや現代の小説を原作としてやる時と、気持ちは相当違うものなのですか?

浅香

広く読まれている作品なので、どこまで裏切っていいものかは考えますね。それは原作ありの作品を作るときに、原作者や視聴者、原作を知っている読者を意識するのとはあまり変わりません。
でもこれだけ物語が有名だと何か架空の敵がいるようには感じますね。すでに人の頭の中にある『人間失格』のイメージに対しどれだけ的を射られるか、どれだけうまく裏切れるかは、勝負的なところもあります。

AA

そうした中で作品は現代にも通じるし、誰にでも通じるものなのでしょうか。

浅香

僕はそうだと思っています。それは他の人がどう考えるのかは、自分以外の人の気持ちが分からない葉蔵と同じことだと思うんです。
他人がどう思うか分からないですけれども、自分はそれに共感して、そこが共感できるところだと思って、今回の『人間失格』を作っています。

.

AA

キャラクターデザインについても伺っていいですか。小畑健さんのすらっとしたキャラクターがまず原案にあったわけですが。

浅香

今回の企画自体が古い純文学小説を新しい装丁で出す企画からスタートしています。実はそうなるとイメージする葉蔵のキャラクターと小畑さんのキャラクターは、少しかみ合わないところもあるんです。
ただ、絵の力はもう格段にあって魅力的なんです。小畑さんの描く葉蔵が女を引きつけるのも納得が出来ます。

AA
作品は全体に様式美的なところがあり、それが昭和初期の時代に合っています。物語と美術の感覚も相当意識されていたのですか。

浅香
最初に考えました。昭和初期の話ですけれども、あまり古いセピア調にしたりは意識しないで、むしろちょっとくすんだ世界観の中にどぎつい色がたまに入ってくるような、ショッキングな絵を作ってやろうと意識しました。
ポイント、ポイントで印象的な絵を入れてやって、話を構成していくことを最初に考えました。赤い空のタイトルバックや真っ白い雪の中の赤い傘とかです。

■その2に続く 葉蔵と出会った女性たち



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