『日本のCGアニメの今』(1)
                       『ハッスル!とき玉くん』の頃                  

文・構成: 藤田健次

はじめに

1998年、通産省マルチメディアグランプリ CG部門エンターテインメント賞/文化庁メディア芸術祭 デジタルアート部門大賞をダブル受賞した『ハッスル!とき玉くん』をはじめて見たときは衝撃的でした。

監督の森本晃司氏は優れたアニメーターですが、その特徴的なテキパキしたソリッドな動きがCG(ここでは便宜上、3DCGを『CG』と呼びます)を使って表現されていて、それはまさに日本人にしか作れないジャパニーズ・スタイルのCGアニメというものでした。



『ハッスル!とき玉くん』
正式なインターネット公開はこれが初となります。

海外の手描きアニメのスタイルは元々CGに移行しやすいものでした。しかし日本のCGアニメは海外とは異なる独自のスタイル(以下TVアニメなどで一般的なアニメスタイルを「Jスタイル」と呼びます)がTV・映画で一般的に定着していたこともあり、メジャー路線で活躍するにはJスタイルとの共存が絶対条件となります。

そしてそれは世界でも特異な、技術的にも大変な宿題を背負わされることになったのです。

絵柄が手描きアニメと同じになること

絵のスタイルに関してはトゥーンシェイダーという、CGを手描きセルアニメ風に変換する技術でほぼ解決できます。
しかし日本のアニメではことさら重要視されるキャラのかわいさと表現力をCGで手描きと同等にするのが至難の業です。
元々手描きのキャラは立体として嘘があります。

例えばアニメにおけるカワイコちゃんの顔はどのアングルでもかわいくなければなりません。しかしCGだとどのアングルでもカワイコちゃんにするには、モデルの鼻、髪型まどをアングルごとに一々変形させなければなりません。それなら「描いたほうが早い」となります。
ただ、最近のフィギュアを見てもわかるように、立体可能のカワイコちゃんの造形が確立しています。しかしあれは固定された表情での立体なので、同じ発想でCGモデルを作り演技をさせると「人形のような」キャラが出来上がってしまいます。

また、意外と大変なのが「影」です。Jスタイルのアニメは影がデザイン的に重要で、特に最近は直線的な影がスタイリッシュに付いていたりします。しかしCGでは普通にトゥーンシェイダーの処理をすると影がリアルに付きすぎて80年代に流行った「ワカメ影」のようになってしまいます。
CGでアニメ的なザックリとした「うその影」を作り出すために、CGモデルに見えないパーツがたくさんついていたりします。

動きが手描きアニメと同じになること。

一つ一つ手作業でCGモデルに動きを付けることを「手付け」と言いますが、「手付け」をするには手描きアニメーター同様、技量とセンスが重要となってきます。これが大変です。そこで、人や動物の動きをシュミレーションする技術が生まれました。モーション・キャプチャーです。これによりCGキャラは容易に動かすことが出来るようになりました。
なったのですが、今度は動きがリアルすぎるので、デフォルメされた手描きのJスタイルの動きに合いません。手描きがパッパッならCGはヌルヌル、という感じです。

手描きアニメのクォリティを補佐し、なおかつ早くて安くてうまいこと。

元々日本のアニメが限られた予算の中で作られてきたのは周知の事実で、そのため現場では様々な工夫が行われ、それがスタイルにまで昇華されて今があります。設備投資だけでも予算がかかってしまうCGも、この現場の鉄則に沿う必要があります。いや、それ以上に

「CGを使ったから、手描きだと人手と時間がかかるところが簡単に少人数で早く出来て、しかも全体のクオリティアップが出来た。」
と言われなければなりません。

吉野家の牛丼に「価格そのままで明治以来の味の伝統と近江牛などの高級食材を感じさせろ」と言ってるようなものです。
CGは確かに全体のクォリティアップに貢献できます。
手描きにはアニメーターたちの画力の違い・力量の差があり、クォリティ・統一感にばらつきが出てしまいます。しかしCGはモデルを共通で使うので、キャラクターに関しては一定のクォリティ・統一感をとりあえず保つことが出来ます。あとはアニメーションとして一番重要な「動き」のクォリティですが、モーションキャプチャーを使えば、とりあえず一定のクォリティで動きます。

TVシリーズとなると予算も時間も限られるので、日本のアニメ業界は現場的なノウハウで強引に「早くて安くてうまい」Jスタイルにします。潤沢な予算と時間を使って研究・開発を繰り返し、表現に昇華する海外のCGアニメとは真逆ともいえます。しかしこれもまた結果的には日本のお家芸となり、様々な様式を生み出しています。

技術ありきのCGでも手描きアニメ同様、独自の現場的なテクニックがうまれ、波及し、独自のスタイルとして昇華されていくでしょう。実際すでにそうなってきています。
そして一方では、日本では日本独自のJスタイルに寄り添った形の様々な研究や開発も行われています。

今回はそういった「日本からしか発想できないCG技術」と「ジャパニーズ・スタイルの中でのCGの今後」を、『ハッスル!ときたまくん』を制作し、現在、CGモデルの動きの研究を行っている、トリロジー・フューチャー・スタジオの平氏に聞いてみようと思います。
インタビューを通して、日本のCGの進むべき未来の方向性の1つが見えてくるかもしれません。


■ 平 正昭
CMプロダクションにて企画・演出を手掛けた後、CG制作に従事。博覧会映像、TVCM、ゲームムービー、オリジナル作品のディレクション、プロデュースを多数手掛ける。 リンクス時代にオリジナルCGソフト『PersonalLINKS』、35mmフィルムスキャナーなどを(株)IMAGICAと共同開発、またデジタルスタジオ構想の一環としてモーションキャプチャースタジオ(通称 桜亭)を設置した。1982年JCGL(国内初のCGプロダクション/制作本部長)、1987年トーヨーリンクス(現リンクス・デジワークス)/専務取締役)を経て、1997年トリロジー、2000年トリロジー・フューチャースタジオを設立、代表を務める。 制作参加作品 PiNMeN(オリジル)、BIOHAZARD CORD Veronica、えいごリアン、銀河鉄道物語、アフロサムライ、攻殻機動隊S.A.C.、のだめカンタービレなど。


■『ハッスル!とき玉くん』の頃

『ハッスル!とき玉くん(以下『とき玉くん』)』を制作するときのテーマは何だったんでしょう?

平

ずばり「アニメーションを知る」でした(笑)。自分たちはどれだけアニメーションを知っているのだろう、理解しているのだろうか?と。そしてプロジェクトの目標は「ポリゴンをまともに動かそう!」。森本(注:監督の森本晃司氏)さんにとってはいい迷惑だったと思いますね、今更アニメを知ろうと言われてもね…。

その頃のCGスタッフは平均何歳くらいで何人くらいいたのですか?

平
キャリア中心で構成せざるを得なかったので30歳くらいだったですかね。外部スタッフと森本さんを加え総勢20人くらいで作りました。

手描きアニメの森本さんを中心に人形アニメーター、CGアニメーターを集めて制作したそうですが、その狙いはどこに?

平

手描きはこれからCGを無視できない。CGはもっと手描きから学ばねばならない。そして人形はコマごとにポーズを付けるという手描きの要素、造形が立体というCG要素の両面を持っている。
その3つのアニメーションがキャラクターアニメをどう料理するのだろうか?同じ屋根の下で同じプロジェクトに関わることで何か発見できるのではないかと。

監督の森本さんはそのような現場でどのようにアニメーターに指示を出したんでしょう?

平

最初は様子見してましたね。でもある日森本さんが「自分もやりたい」と。CGをですよ。無理だと言ったんですが、どうしてもやりたいと。

紙に描くのと違って、ソフトの操作を覚えないといけないですから、なかなか思い通りにいかないですよね。

平
思うようにならないストレスは相当なものだったと思いますよ。時々奇声を発してましたから(笑)。
それでも出来上がったものはCG屋がどう逆立ちしても出来っこないものでした。ただただ唖然です。劇中「少年」の動きは森本さんによるものです。

少年が水を浴びてびっくりするところの動きは実に森本さんっぽいですね。とても面白く動いてます。



平
それだけでもエポックですよね。モニターの隣で指示するのでなく、自らマウスを持って動きを付ける。日本のCGに最も欠けていたところですから。

■その2に続く 



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