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2009年02月25日
0斉藤守彦の特殊映像ラボラトリー ][ クールアニメ・マーケティング・ヒストリー ]
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斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」

第5回 クールアニメ・マーケティング・ヒストリー(1)前編
TVセカンド・シリーズとの差別化を目指した「ルパン三世(ルパンVS複製人間)」は、「ナイル殺人事件」とのセットで全国を席巻した。

斉藤守彦

【ホワット・イズ・クールアニメ?】
 それにしても「クールアニメ」とは、よくぞ命名したものである。現在テアトル新宿で開催中の「クールアニメ・セレクション」における「クールアニメ」の定義とは、「コアから派生する一般アニメで、作家性の強い作品」とのことだが、我が「特殊映像ラボラトリー」では、これにマーケティング的要素を加えたい。
 つまり、従来のファミリー向けアニメ映画が、いわゆるブロック・ブッキング=邦画系で上映されてきたことに対して、クールアニメは洋画系=フリーブッキングでの上映が中心である。マーケティング的な視点で両者の最も大きな違いを述べるとすれば、邦画系での展開は特定期間、特定の映画館での上映であることに対して、洋画系では作品の成績本意で上映期間は柔軟に延長(あるいは短縮)することが出来、また上映館も同様に作品の興行力を反映したスケールになり得るあたりだ。
 
【「宇宙戦艦ヤマト」のヒットが、アニメ映画のマーケティングを変革した!】
 「東映まんがまつり」を代表とする、我が国のアニメ映画といえば、幼児層を狙ったファミリー向け番組として邦画系で上映というパターンが、それまでの主流であった。ところが1977年8月公開の「宇宙戦艦ヤマト」が洋画系での展開で配給収入約9億円を計上。また観客の中心もファミリーではなくティーンエイジャーと、アニメ映画の新しいサクセス・パターンを創り上げた(それ以前も、手塚治虫の「千夜一夜物語」「クレオパトラ」「哀しみのベラドンナ」など、大人向けアニメ映画を洋画系で上映した前例はあったが、「ヤマト」ほどの興行的成功は見られなかった)。

 その「ヤマト」のヒットから1年余。東京ムービー新社(現・トムス・エンタテインメント)が初の本格的長編劇場用アニメ映画として「ルパン三世」(ここでは他のシリーズ作品と区別するために、「ルパンVS複製人間」と呼称する)を製作。1978年12月16日より東宝配給によって全国公開される。
 興行展開の中心となる、いわゆるチェーンマスターは、東宝洋画系の丸の内東宝で、独自のチェーンを形成するこの劇場網は「グレート・ハンティング」「アドベンチャー・ファミリー」など、エンタテインメント要素が濃厚な作品をヒットさせていた。その正月番組に起用された「ルパンVS複製人間」だが、この作品には興味深いメイキング・エピソードが存在する。まずは、それをひもといてみよう。 

【故・藤岡豊が目指した、“大人のためのアニメ「ルパン三世」】 
 「ルパン三世」はファースト・シリーズ23本が1971〜72年にオンエアされたものの、低視聴率で終了。ところが再放送で人気シリーズとなり、1977年10月からはセカンド・シリーズがオンエアされたことは広く知られるところだ。視聴率的にも前シリーズの汚名を挽回したセカンド・シリーズ。その支持層は、主に中・高校生のアニメ・ファンだった。
 ティーンエイジャーの人気を得た「ルパン三世」の映画化といえば、テレビと同様、十代の観客を狙うのがビジネス上のセオリーだが、当時の劇場版スタッフは、セカンド・シリーズの人気に便乗するのではなく、むしろセカンド・シリーズとは異なる内容で、より高い年齢層を狙った。これは東京ムービーの創設者である、故・藤岡豊が「色気のある、大人のアニメを作りたかった」との意向が、大きく反映された結果だという。

 「ストーリーも、絵の展開も、いかにスケールアップ出来るかが映画のポイントとなった。つまりテレビ・シリーズとの差別化を第一義に考えた」とは、「ルパンVS複製人間」当時、東京ムービー新社で宣伝・営業担当を、現在はトムス・エンタテインメントのスーパーバイザーを務める熊井良助の証言だ。
 「クローンの登場には、賛否両論があったが、前述の理由(テレビとの差別化)の理由で採用が決定。また、劇場用アニメ化が決定した1977年当時は、007シリーズが絶好調で(77年12月に公開され、配収31.5億円の大ヒットを記録した「007/私を愛したスパイ」と思われる)、「ルパンVS複製人間」も相当に意識し、息をもつかせない、観客の想像を絶するアクションに、スタッフは苦心した」。

 実際に、この“原点回帰”を目指した劇場版の監督候補には、ファースト・シリーズ初期編を演出した、大隅正秋(現・おおすみ正秋)の名があがったという。ところが「映画としての新しい魅力を構築する意味から、吉川惣司監督が劇場用として打ち出した、“クローン”に勝負を賭けた。
 SFタッチの内容にしたことも、テレビとの差別化を図ったことが最大の理由」と熊井は言う。どこまでも東京ムービー新社が目指したのは、“ヒットしたTVアニメの劇場版”ではなく、“1本の映画として、オリジナルな魅力を持つ、大人の観客向けの作品”であったのだ。
 
【配収9.15億円の背景にある、絶妙なマーケティング戦略】 
 さてそうした製作サイドの意気込みは、マーケティングに反映されたのだろうか?データをもとに、多角的に検証を行いたいところだが、なにしろ30年以上前の作品とあって、興行成績などの詳しいデータが残されていない。加えて東宝は旧作の興行成績とその推移を現在一切公表していない。それ故断片的なデータから全体像を類推するしかない事情を、お察しいただきたい。
 結果から言えば、「ルパンVS複製人間」の配給収入(現在では興行収入=興収が映画の収入を表す単位となっているが、1999年までは配給収入=配収であった。興収は入場料金のトータル額で、配収は、そこから配給会社が得る金額を意味する)は、「キネマ旬報」780号によれば9.15億円あり、これは1979年(78年12月に公開された正月映画は、精算のタイミングから79年作品として扱われる)に東宝が配給した作品(番組)中、第4位の成績。1位は「あ々野麦峠」(14億円)、2位「ベルサイユのばら」(9.3億円)、3位「炎の舞」「ピンク・レディーの活動大写真」(9.2億円)で、5位は「ホワイト・ラブ」「トラブルマン・笑うと殺すゾ!」(8.6億円)であった。10億円の大台を超えずとも、大健闘の成績と言える。東宝としては「チャンピオンまつり」などでファミリー・ターゲットのアニメ映画は扱い慣れていたものの、大人をターゲットにしたクールアニメは初めての経験であった。

 当時のマーケット環境も考慮した上で、「ルパンVS複製人間」という作品のビジネス・パワーを検証すると、いくつかのユニークなマーケティング戦略を発見することが出来る。
 まず第一に、「ルパンVS複製人間」の配収の成り立ちについて検証してみよう。前述した通り、「ルパンVS複製人間」は、丸の内東宝をチェーンマスターとした、東宝洋画系で公開された。メイン館である丸の内東宝は、「公開前日から熱狂的なファンが押し寄せ長蛇の列を作り、丸の内警察署の警官までが、観客整理に参加する結果となった」とは、これまた熊井の証言。
 ユニークなのは、この映画のローカルでの上映方法だ。東宝は子会社である東宝東和が配給するイギリス映画「ナイル殺人事件」との2本立て番組で、「ルパンVS複製人間」を上映したのだ。映画のマーケットは、9大都市(東京・大阪・名古屋・札幌・川崎・横浜・神戸・京都)とローカル地域に大別されるが、この9大都市のうち名古屋・福岡・札幌と、ローカルが「ルパンVS複製人間」「ナイル殺人事件」を2本立てで上映した。当時は映画館数の少なさをカバーする意味でも、ローカルでは2本立て興行が主流であった。

 そうしたマーケット環境を考えても、親会社と子会社という関係こそあれ、違う配給会社同士が2本立てを組むという事態は、極めて珍しい。当時の配給関係者によれば、この2本立てを提案したのは、親会社である東宝とのことだ。つまり、1979年の時点では、現在とは逆にマーケットでは洋画の力が強く、東宝としては洋画系に邦画、それも未経験の“大人向けアニメ”を公開することに不安があったのだろう。女性をメインターゲットに据えた「ナイル殺人事件」とのカップリングは、「ルパンVS複製人間」にとっても有効であり、豪華2本立てというお得感を与えることも出来る。
 その狙いは当たった。「ルパンVS複製人間」が配収9.15億円をあげたのに対して、「ナイル殺人事件」は、実に19億円を計上した。これは1979年における、洋画配収第2位(第1位は「スーパーマン」の28億円)にあたる成績だ。つまり「ルパンVS複製人間」「ナイル…」の2本で、計28.15億円の配給収入をあげたことになる。この番組配収28.15億円を、いかにして各作品に配分したかといえば、これは東京と大阪のロードショーの成績を基準にして比率を決定する(配給関係者が言う「アロケーション」)。

クールアニメ・マーケティング・ヒストリー(1)後編
クールアニメ・マーケティング・ヒストリー(2)前編
クールアニメ・マーケティング・ヒストリー(2)後編

[筆者の紹介]
斉藤守彦

1961年生れ。静岡県浜松市出身。
映画業界紙記者、編集長の経験の後、映画ジャーナリスト、アナリストとして独立。「INVITATION」誌で「映画経済スタジアム」を連載するほか、多数のメディアで執筆。データを基にした映画業界分析に定評がある。「宇宙船」「スターログ日本版」等の雑誌に寄稿するなど、特撮映画は特に得意な分野としている。

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posted by animeanime at 2009.02.25
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