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2009年03月25日
0斉藤守彦の特殊映像ラボラトリー ][ クールアニメ・マーケティング・ヒストリー ]
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斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」

第6回 クールアニメ・マーケティング・ヒストリー(3)前編

誰もがこの映画の幸福を願い、ベストをつくした「時をかける少女」。

斉藤守彦

【ミニシアターでのアニメ映画興行】
 「宇宙戦艦ヤマト」のヒットから10年。1980年代半ば、我が国における映画マーケットに、ある変化が訪れた。ミニシアターと呼ばれる、その名の通りの小座席数の映画館が渋谷、六本木、銀座などに出来、従来のチェーン編成化された映画館では上映出来ない、アート作品を上映し始めたのだ。
 この流れは、数年のうちに変化して行った。国内の配給会社が折からのビデオ・ブームとバブル経済に乗って、ミニシアターの主力商品であったヨーロッパ映画を買い漁った結果、買付価格は上昇。小規模資本の配給業者は、目先を変えて日本映画の単館ロードショーを試みる。その中に、アニメ映画が入っていても、何ら不思議はなかった。

 都内に複数の興行事業場を持つ東京テアトルは、直営館・テアトル新宿で、日本のインディペンデント(独立系)作品を中心とした番組編成を試みていた。これは「映画作家との対話が出来る映画館を目指す」というポリシーを通して、他のミニシアターとの上映番組の差別化を図ったものだ。その戦略は成功し、テアトル新宿は日本の独立系映画の名門とまで認知されるようになっていた。
 またアニメ映画の上映に関しても、東京テアトルはテアトル新宿で1989年春に「アキラ・完全版」、97年春に「攻殻機動隊/インターナショナル・バージョン」などを上映する他、池袋の直営館・テアトル池袋を「アニメシアター」とし、ビデオ発売のためのプロモーションと連動した上映・イベント展開を80〜90年代に見せていた。
 テアトル新宿における、日本製アニメ映画=いわゆるクールアニメの新作上映は、2000年6月の「人狼」(監督:沖浦啓之)が最初。この場合も、他の日本映画同様、作家性を重視した作品選択の結果であり、アニメ映画といえども、テアトル側はその方針を貫いたのである。
 
【「条件はひとつ。完成は公開1週間前」】
 現在も東京テアトルで番組編成の業務にあたる沢村敏が、角川ヘラルド映画(現・角川映画)から「時をかける少女」についてオファーを受けたのは、2006年の年明けのことだった。
 「『時をかける少女』には、注目していました。僕はイベントなどを通して細田守監督と知り合い、彼がこの映画を手がけていることは、知っていましたから」(東京テアトル映像事業本部 番組編成日本映画担当・沢村敏)。

 とは言うものの、夏休み作品の上映を年明けの段階でオファーすること自体、かなりの遅れをとっている。この種の単館ロードショー館の上映番組は、早いところでは1年先まで内定していることも少なくない。細田監督とはおつき合いがあるという沢村としては、テアトル新宿に「時をかける少女」をブッキングしたいのは山々だが、現実的には困難が伴った。
 「社内でシナリオを回し読みしましたが、そのリアクションも今ひとつで、“なぜ、今さら『時かけ』なのか?”という声が多かったですね。でも僕は、細田監督がフリーになって最初の作品だから、気合いが入ってないわけがない。もう、ほぼ盲目的に“この作品で夏休みに勝負をしたい”と主張しました」。ほどなくして沢村の意向は、テアトル新宿の夏休み番組に反映されることになる。
 「ただし、角川ヘラルドからひとつだけ条件を提示されました。それは『作品の完成は、公開の1週間前』ということでした」。

 アニメ映画ではありがちなケースだが、作品の完成が公開1週間前という事態は、興行サイドにとってもリスクを伴う。通常の映画の宣伝プロセスから言えば、製作宣伝から配給宣伝に移行する際、完成した作品をメディア関係者に見せるための試写会の開催が必須であり、作品を見せた上で、そこからプロモーション、タイアップなどへと発展させるのがセオリーだからだ。
 「時をかける少女」の場合、確かに原作の知名度はあるが、なにしろ約40年前に書かれた小説である。初のアニメ映画化という話題こそあれ、それがいかなる成果を収めたかについては、やはり作品を見せてアピールすることが、宣伝の常道だ。また「時をかける少女」の製作の中心が角川書店であることから、角川書店の雑誌媒体には、製作中からレギュラー的に情報が掲載されはするものの、公開となった際には、より大規模な媒体露出が必須とされるところだ。そうした宣伝面での事情を考えると、作品完成の遅れが大きな障害となるのは明らかだった。

第6回 クールアニメ・マーケティング・ヒストリー(3)中編
第6回 クールアニメ・マーケティング・ヒストリー(3)後編

[筆者の紹介]
斉藤守彦

1961年生れ。静岡県浜松市出身。
映画業界紙記者、編集長の経験の後、映画ジャーナリスト、アナリストとして独立。「INVITATION」誌で「映画経済スタジアム」を連載するほか、多数のメディアで執筆。データを基にした映画業界分析に定評がある。「宇宙船」「スターログ日本版」等の雑誌に寄稿するなど、特撮映画は特に得意な分野としている。

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posted by animeanime at 2009.03.25
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