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斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」
第13回 「特撮映画マーケティング・ヒストリー」
ゴジラVSシリーズの栄光(前編)-1-
斉藤 守彦
【最初に復活「ゴジラ」ありき。】
田中友幸プロデューサーたちが、その復活までに心血を注いだ「ゴジラ」は1983年12月15日より、全国東宝系にて一斉公開された。この年の正月は、アメリカ映画「グレムリン」「ゴーストバスターズ」、そしてこの「ゴジラ」と、3本の“G”作品が同時期に公開されることとなり、マスコミはこれを「3G対決」と名付け、大いに期待感を煽ったものだった。
結果的に「グレムリン」は配給収入31億8200万円、「ゴーストバスターズ」40億9900万円に対して、日本代表の“G”「ゴジラ」の配収は17億円と、2本のアメリカ映画に大きく差をつけられる結果となったが、東宝としてはこれは満足すべき成績だったようである。というのも、過去3年間の東宝の正月番組はといえば、1981年に山口百恵の引退作品「古都」が配収10億3800万円、82年に、たのきんトリオの「グッドラックLOVE」とビートたけしの「すっかり…その気で!」を公開し、配収10億3000万円、翌83年正月も、たのきんトリオの「ウィーン物語/ジェミニ・YとS」「三等高校生」で配収10億6600万円と、総じて配収10億円ペースは維持しているものの、それまでの東宝正月映画の記録である「日本沈没」(1973年12月公開)の19億5200万円(「グァム島珍道中」との番組配収)を超えることが出来ないでいた。
それを考えれば「ゴジラ」の17億円は上々の成績であり、「日本沈没」こそ超えることは出来なかったが、自社プロパー作品の大作としては、堂々たる正月興行であったと評価できるだろう。
なお本文中「興行収入」「配給収入」と、映画の収入を表す2つの単位が登場するが、前者は映画館のボックスオフィスに集積される、つまり入場料金のトータル額であり、後者はそのうち配給会社の取り分を意味する。
この2つを混同した表記を時折見かけるが、両者の間には2倍近い差がある。また1999年までは配収が、2000年以降は興収での発表となっているが(このことが混乱を招く大元でもある)「ゴジラVSビオランテ」から「ゴジラVSデストロイア」までの、いわゆる“VSシリーズ”に関しては、作品単位の最終的な収入を表す単位は配収で統一している。だが作品の興行概況などを示す時は、興収が単位として使用されるので、そのあたりは留意されたい。
【「勝ったほうが、人類最悪の敵になる」】
その復活「ゴジラ」のヒットから、実に5年の歳月が流れていた。
「ゴジラVSビオランテ」の製作発表は、クランクイン記者懇談会との形式をとり、1989年8月22日に成城学園前の東宝スタジオにて開催。今は亡き特撮用大プールにミニチュア・ヘリコプター2基を飛ばし、火薬なども使ってゴジラ対自衛隊の模擬撮影がマスコミに披露された。
筆者もこの懇談会に出席し、生まれて初めて見る特撮映画の撮影風景に、大いに胸をときめかせたのであった。またこの時点では「総製作費15億円、特撮は8月中旬、本編は9月上旬にクランクイン、アップは11月上旬、完成は11月下旬を予定している」とのこと。正月作品にしては、公開ギリギリの完成であるあたりからも、映画化決定までに時間がかかったことがうかがえる。
「ゴジラVSビオランテ」は1989年12月16日から、全国216館にて公開された。90年代最初の正月興行は「ゴジラVSビオランテ」以外に、ティム・バートン監督の「バットマン」、前作が「ゴジラ」と同時期に公開された「ゴーストバスターズ2」、そしてスピルバーグ製作によるヒット・シリーズ第2弾「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」と、外国映画勢に注目作がズラリそろった。中でもサマーシーズンに公開され、アメリカでは記録的な大ヒットになっていた「バットマン」が本命視されていたが、フタを開ければ「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」が配収55億3000万円と「バットマン」の19億800万円、「ゴーストバスターズ2」の17億5000万円を大きく上回り、興行関係者に少なからぬショックを与えた。
一方「ゴジラVSビオランテ」は配収10億4000万円と、当時の東宝正月番組としては及第点といったところだが、ゴジラ・シリーズの場合、80年代初頭から登場したビデオ・マーケットでの大きな稼働が見込まれるため、それを見越した総合的な収入となれば、充分にリクープすると判断できるだろう。
公開スタート時、筆者が書いた記事によると「ゴジラVSビオランテ」のスタートは「配収15億円も射程距離内」との見出しで、「土曜、日曜の成績は、前作『ゴジラ』(配収17億円)対比人員78%、興収79%と13億円台は確実のヒットとなった」とあり、客層は「60%以上が親子連れと、前作よりもファミリー向けになっており、男女比は7対3。観客の満足度も92%と高く、これから始まる冬休み、正月にかけてファミリー層の集中力はより高まると考えられるところから、配収15億円も射程距離に入ったと言えるだろう」と結んでいる。
とはいえこうした記事は、各社宣伝部の宣伝プロデューサーが書いた、オープニング景況用のプレスリリースをベースに書くため、これらの内容やデータは記者の取材ではなく、すべて東宝サイドの“大本営発表”である。配給会社としては業界紙の紙面にこうした記事を露出することで、興行者へのデモンストレーションとしていたこともあり、そのため実際よりも高い見込み(というか、目標)数値を掲載する傾向が、きわめて強かった。なおオープニング2日間の劇場別興収ベスト3は次の3館。
1=梅田劇場 (9775名、1305万7550円)
2=京都宝塚 (6536名、764万5800円)
3=日劇東宝 (5043名、730万1000円)
【「ゴジラVSビオランテ」の宣伝展開】
ゴジラ復活に至る経緯が、そのまま話題性に繋がり、抜群のパブリシティ効果をあげた「ゴジラ」だが、それから5年という歳月が流れていることから、さすがに同じ手は使えず。 しかし広告や宣伝材料には、ゴジラとビオランテの対決の様子をシャープに捉えたカットに「超ゴジラ。」という一発コピーが大作感を与え、前作同様、大人向けのイメージを強く打ち出している。前述したように、オープニング時の客層がファミリー中心となったことは、ある種の見込み違いが起こったわけだが、これは次回作での課題であろう。
タイアップは三菱電機、ソニー、アイエムエス、ファーストキッチン、新キャタピラ三菱の5社と、その後の新作での展開に比べれば、慎ましやかとさえ言える。TVプロモーションとしては、日本テレビ、読売テレビなど10局で「ゴジラ」(昭和25年版)「キングコング対ゴジラ」「モスラ対ゴジラ」など旧作を30回に渡ってオンエア。こういうことが出来るのが、長い歴史を持つシリーズ作品の強みだ。
さらにはTV50番組、雑誌180誌でのパブリシティ露出、14万枚の割引券配布、三田村邦彦、田中好子ら出演者とゴジラによる、巨人軍ファン感謝デーでの始球式、日劇東宝、梅田劇場での完成披露試写会、大阪・ツイン21屋上、名古屋栄北公園に全長15メートルのメガホーム・ゴジラ展示、「デーモン木暮のオールナイト・ニッポン」で「ザ・ゴジラ・スペシャル」を実施。川北特技監督、大森監督、小高恵美、ゴジラがゲスト出演するなど、各メディアにおいて、日夜賑やかに「ゴジラVSビオランテ」の話題が取りあげられた。
(2)「ゴジラVSキングギドラ」の戦略
(3)日本映画年間トップの配収記録樹立!!
[筆者の紹介]
斉藤守彦
1961年生れ。静岡県浜松市出身。
映画業界紙記者、編集長の経験の後、映画ジャーナリスト、アナリストとして独立。「INVITATION」誌で「映画経済スタジアム」を連載するほか、多数のメディアで執筆。データを基にした映画業界分析に定評がある。「宇宙船」「スターログ日本版」等の雑誌に寄稿するなど、特撮映画は特に得意な分野としている。
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