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2010年01月25日
0斉藤守彦の特殊映像ラボラトリー ][ もーろー日記 ]
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斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」
第16回 もーろー日記/2010年正月・特殊映像対決始末記

斉藤 守彦

●2010年正月興行を制した
「アバター」の大ヒットの秘密は?

 
 日本映画、外国映画、3D大作、CGアニメ、実写特撮映画、アニメ映画が入り交じった“特殊映像正月興行”バトル。どうやら勝敗がついてきたようだ。
 2009年12月某日。
 TOHOシネマズ六本木ヒルズにて、「アバター」の試写会。午後9時半スタート。上映時間2時間42分なので、電車での帰宅は諦めていたが、昼間の人身事故の影響か、地下鉄のダイヤぐちゃぐちゃ。遅れてきた終電で帰ることが出来た。
 その「アバター」だが、全米及び海外諸国よりちょっと遅れて、12月23日から日本公開がスタートした。オープニング時点での成績は、入場者数35万8853名、興収5億3322万7400円。1スクリーンあたりの興収は64万898円(前夜祭分を含む)であった。この成績は832スクリーンという超拡大興行のなせる技と言えるが、この数字を見る限り、188スクリーンでスタートした「ONE PIECE STRONG WORLD」のオープニング(81万8738名、興収10億3843万9600円。1スクリーンあたり552万3615円)に、大きく水をあけられている。
 当初「アバター」の興行ポテンシャルは、さほど高くはなかった。正直言って、マスコミ試写を見た筆者も「興収30億円をどう上回るか…」というのが正直な評価であった。あまりにも「ダンス・ウィズ・ウルブズ」な内容と、パッと見不気味な青い人とか、ジェームズ・キャメロン監督12年ぶりの新作という話題性に、3D映画の真打ち登場!!といった煽り文句だけがこの映画のセールスポイントにしか見えない。日本だけ数日遅れたとは言っても、実質的にはほぼ世界同時公開で、それだとプリントはギリギリにならないと入ってこないし、3Dというフォーマット故、試写会を簡単に開けないというデメリットがある。試写会を開くことが出来なければ、マスコミにも一般観客にも、その内容を伝えることが出来ないわけで、宣伝的には大きなリスクを背負うことになる。さて正月にかけての興行では、いかなる推移をするのだろうか。
 
●「カールじいさんの空飛ぶ家」は、
 8か月に渡る宣伝展開が行われた。

  
 「アバター」と対照的だったのが、ディズニー=ピクサーのアニメ映画「カールじいさんの空飛ぶ家」だ。全米公開は2009年のサマーシーズン。夏休みに日米同時公開という手もあったが、この映画にとってそれは得策ではない。公開時期を2010年正月と定め、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンは万全の体制でこのアニメ映画のマーケティングを行っていった。宣伝部としても、日本製アニメ映画のように、TVシリーズなどで既に知名度のある作品とは違い、ディズニー・アニメの場合、ゼロから作品の内容やキャラクターを売り込まなくてはならないわけで、これはかなり時間と手間のかかる作業だ。この前年、アメリカでは夏に公開された「ウォーリー」を、同社では正月に公開して興収40億円のヒットに導いている。同じように「カールじいさん…」も、作品内容の浸透を第一に心がけた。オリジナル・タイトル「UP!」も、あえて日本語タイトルにし、「じいさん」という単語を使ったのも、昨今の観客が高齢化していることを考慮したという、徹底した日本マーケット向けのローカライズが行われたのである。
 また「カールじいさんの空飛ぶ家」の場合、3Dバージョンも同時に上映されたが、「アバター」のように3Dのみを連呼するような売り方をしていない。あくまで3D版はプラス・アルファという位置づけで、マスコミ試写も3D版は、東京国際映画祭で上映されたフィルムを使って、わずか4回しか行われなかった。
 宣伝の立ち上がりはゴールデン・ウィーク。実に8か月に渡り、試写会の開催や来日記者会見、野村もと楽天監督をカールじいさんに仕立てたイベント展開など、公開までにおよそ考えられるあらゆる手段を使って、パブリシティ、アドバタイジング、プロモーション展開を行い、万全の姿勢で12月5日の初日を迎えたのであった。
 本稿執筆時点での累計興収は46億円と、「ウォーリー」を上回ったものの、最終的に50億円の大台に届くかは微妙なところだ。タラレバの話になって恐縮だが、もし「カールじいさん…」が「アバター」のように、3D版をメインに据えたマーケティングを行ったならば、いかなる結果が出たかは興味深い。しかしこの映画のように感情に訴えかける作品の場合、昨今のハリウッド映画の大作のように、けたたましい売り方をするのはマイナスになりかねない。扱いが難しい作品なのだ。
 
●大番狂わせ?予想外の大ヒット!!
「STRONG WORLD ONE PIECE FILM」

 2010年1月某日。
 12月12日から東映アルファ・チェーンを中心に、全国188スクリーンでスタートした「STRONG WORLD ONE PIECE FILM」の興行収入が、40億円を突破したとの報道。
 この作品、原作者の尾田栄一郎が、アニメ化10周年を記念して製作総指揮、映画ストーリー、コスチューム&クリーチャー・デザインを務めただけあって、確かに面白い。事前の予測では、前作「エピソード・オブ・チョッパー+冬に咲く、奇跡の桜」の興収が9.2億円だったことから、10億円の大台突破は確実。作品のクォリティから行けば興収20億円は可能と言いたいところだが、全国188スクリーンというマーケット規模では、さすがに無理がある。東映の宣伝マンも「本番線(邦画系)での『仮面ライダー』とはスクリーン数が違うので、かないませんよ」と言っていたが、フタを開けるや当事者の予想を大幅に上回る大ヒット。現在までの累計興収は43.6億円。最終的に45億円を突破することは間違いなしの、超・大ヒット。ここ数年の東映配給作品としては「男たちの大和」(興収50.9億円)、「相棒 -劇場版-」(興収44.4億円)と肩を並べることになろうとは、誰が予想しただろうか。
 今回のこの新作は、東映にしては珍しくTV=出版=映画の連動が実施されたケースだ。まずTVアニメ・シリーズは「映画連動特別編」と題して、11月15日より4週に渡ってエピソードをオンエア。また出版では「週刊少年ジャンプ」での連載に、映画のキャラクターを登場させ、さらに12月4日に刊行した単行本56巻は、初版285万部という、我が国史上最高の発行部数を記録したことが報じられ、世間の注目を集めた。こうした複合的な話題の連鎖が、映画への注目度を集め、それに加えて、原作者自ら描きおろした「エピソード0」を入場者全員にプレゼントするというサービスと話題性が、さらに拍車をかけることになった。初日から上映館では満席はおろか、向こう1週間分のチケットが売り切れたという。これには関係者も業界人もびっくり。中でも驚いたのが、東映の人たちだという(笑)。「アバター」が公開される23日までは、一番大きなスクリーンで上映したシネコンも、かなり多いようだ。そうなると、スクリーン数の多い作品が、必ずしも興行的に優位な地位にあるとは言えない。アンダー200スクリーンで展開した作品としては、昨年の「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」の興収40億円を上回る作品が、早速登場したことになる。

(2)興収100億円の可能性もある 「アバター」の快進撃ぶり!!

[筆者の紹介]
斉藤守彦
1961年生れ。静岡県浜松市出身。
映画業界紙記者、編集長の経験の後、映画ジャーナリスト、アナリストとして独立。「INVITATION」誌で「映画経済スタジアム」を連載するほか、多数のメディアで執筆。データを基にした映画業界分析に定評がある。「宇宙船」「スターログ日本版」等の雑誌に寄稿するなど、特撮映画は特に得意な分野としている。

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0斉藤守彦の特殊映像ラボラトリー ][ もーろー日記 ]
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斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」
第16回 もーろー日記/2010年正月・特殊映像対決始末記-2-

斉藤 守彦

●健闘「仮面ライダーW・・」
 撃沈「宇宙戦艦ヤマト・復活篇」

 
 「STRONG WORLD ONE PIECE FILM」の陰に隠れてしまったが、東映邦画系で公開された「仮面ライダー×仮面ライダー/ダブル&ディケイド MOVIE大戦2010」も、昨年夏の「劇場版仮面ライダーディケイド/オールライダー対大ショッカー」にはかなわないものの、最終興収15億円を見込む健闘ぶり。ただし「仮面ライダーディケイド」の最終回に「この続きは、映画館で!!」と告知した、あれは明らかにやりすぎ。苦情が殺到し、テレビ朝日の社長が謝罪したのも無理はない。
 TVシリーズがオンエアされてない分、「大怪獣バトル/ウルトラ銀河伝説THE MOVIE」は、分が悪い。現時点での興収は6.08億円といったところで、前作「大決戦!超ウルトラ8兄弟」の8.4億円を下回る結果となりそうだ。作品内容的には悪くないが、ミクラスがベムスターをやっつけるという、あの描写には開いた口が塞がらなかった。
 12月12日は、さながら“昭和ヒーロー映画決戦”。「仮面ライダー」「ウルトラマン」と並んで公開されたのが、「宇宙戦艦ヤマト・復活篇」。まあ内容は昔と同じなんだけどね。これが見事なまでに撃沈。現時点での興収は4.3億円。観客の大半が40代の男性だというから、往年を知っている観客しか来なかったわけだ。来年正月に公開される実写版のためにも、再びヤマト・ブームを巻き起こしてもらいたかったのだが・・。
 もう1本残念な結果に終わったのが、りん・たろう監督の新作「よなよなペンギン」。現時点での興収を書くのは差し控えるが、未だ1億円に到達していないことは明記しておこう。製作費から換算して、さてこの成果は…?
 
●興収100億円の可能性もある
「アバター」の快進撃ぶり!!

 1月某日。
 「アバター」が、日本市場において累計興収60億円を突破したとの報道。アメリカのみならず、海外公開も好調で、もしかすると「タイタニック」を抜くかも?などという声さえ出ている。日本の場合は、「タイタニック」が262.1億円というモンスター・クラスの興収なので、これを「アバター」が抜くことは、まずないとは思うが。
 実は「アバター」が公開されて3日目の時点で、現在発売中の「MOVIEぴあ」掲載用に、20世紀フォックス日本代表であるジェシー・リー氏と対談をした。テーマは「アバター」を中心に、これから映画はどう変わり、観客はどう受け止めるだろうか?といったこと。その時点でリー氏が語った「最初こそSF映画と思った男性客が来ていますが、徐々に女性客が増えてくることでしょう。それ以降は、上下の年齢に広がっていく」という観客層の変化予測は、見事に当たった。それもこれも、3D映画であることを連呼した宣伝につられてきた観客が、作品のクォリティの高さを認め、クチコミで広がったことが要因だ。 
 ゴールデン・グローブ賞2部門で最優秀賞を受賞したことから、アカデミー賞に絡むことも確実。最終的には興収85億円は射程距離内だが、今年上半期は邦画洋画ともに際だった大作がないことから、シネコン各社がその気になれば、「アバター」のさらなるロングラン興行も可能だ。アカデミー賞で主要な賞を受賞すれば、さらに客足に弾みがつき、100億円の大台突破という可能性も、充分に考えられるだろう。
 昨年夏あたりから、メジャー系作品を中心に、断続的に公開された3D映画。その話題の蓄積が、“3D映画の決定打”である「アバター」の注目度につながり、またタイミングよく年末に入って家電メーカー各社が3Dテレビの商品化を大々的に発表した。「3Dであることばかりを連呼し、作品の内容をさっぱり宣伝していない」という、興行サイドのブーイングも理解出来るが、今回はその結果が吉と出た。「この映画の宣伝は、とにかく作品を見てもらうしかない。『アバター』を見た観客が、『アバター』の最高の宣伝マンになるのです」という、リー代表の見解は、見事なまでに的を得ている。

(1)2010年正月興行を制した「アバター」の大ヒットの秘密は?

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